《福音》恵みのおとずれ 1994年 12月号

夜のバス停留所。
 雨が激しく降っています。

 寄り添う一組の男女。ふたりはすでに人生の夕暮れを迎えていました。
 20年ぶりの再会もつかの間、もう別れなければなりません。バスが時間通りに来ました。

 バスのステップに立つミス・ケントン。見送るスティーヴンスは、手を握り合ったまま、
 「お会いできて、よかった。さようなら。お元気で」 秘めた思いを別れに託しました。

 やがて、雨の中で固く結ばれた手が、ゆっくり離れていきます。スティーヴンスを見つめているミス・ケントンの泣き顔が次第に小さくなっていきました。彼は頭の帽子をとり、彼女に向かって高く掲げ、もう一度、

 「さよなら!」

  映画「日の名残り」の、美しくも切ない別れのシーンに、胸がしめつけられました。

  原作は英国国籍を持つカズオ・イシグロ氏の同名作品。人生の深みと哀感を、古き良き時代の英国を背景に、格調高く描いています。
 映画も重厚で、私にとって、この夏に見た忘れられない名画でした。 

 花発多風雨(花発(ひら)いて 風雨多し)
 人生足別離(人生 別離足る) 

 1993年に亡くなった作家の井伏鱒二氏は、この漢詩の部分を、次のように訳しました。
 ハナニアラシノタトヘモアルゾ
 「サヨナラ」ダケガ人生ダ

 英語のグッドバイ(さよなら)はゴッド・ビー・ウィズ・ユー(神さまがあなたと共にいますように)が短縮された、祝福の祈りをこめた言葉です。

 神さまが人となられて私たちと共におられる!これがクリスマス・メッセージです。人生最高の幸せは、まことの神さまと共に生きることだと思います。その意味で、私も、「サヨナラ」ダケガ人生ダ、と言わせてもらいましょう。

メリー・クリスマス! では、グッドバイ!