《福音》恵みのおとずれ 2001年 7月号

 音楽を心の病の癒しに用いようという試みは、欧米では半世紀も前から取り沙汰されていたようです。資格を取った音楽療法士という職業すら医療界に組み入れられていると聞きました。近年精神医療に注目されている新しい分野です。何事にも慎重な日本で研究が始められたのは10年ほど前だといわれています。でも、旧約聖書を開くとそれは今に始まったことではありません。すでにれっきとした音楽療法士がいました。サムエル記はこう記しています。

 「神からの悪い霊がサウルに臨むたびに、ダビデは立琴を手に取って、ひき、サウルは元気を回復して、良くなり、悪い霊は彼から離れた。」(Ⅰサムエル16:23)

 「ダビデは、いつものように、琴を手にしてひいたが、…」(Ⅰサムエル18:10)という記事からすると彼はサウル王に召し抱えられた音楽療法士だったといえます。

 すべての音楽がそうだとはいえませんが、ある音楽には確かに情緒の安定を促進する効力があるようです。実験から得たデータによると、リラックスするには子守歌やバロック音楽が一番良いのだそうです。牧場の牛に古典音楽を聞かせるほうがロックミュージックより牛乳の出が格段に多いと心理学のクラスで聞いたこともあります。テレビの画面や野外ステージの楽器から出るメタル音と絶叫に近い歌声、車の窓ガラスを突き破って、ずしんずしんと歩行者の鼓膜を揺さぶるあの響きなどが果たして傷ついた心や落ち込んだ魂を癒すのかどうか。一時的に別世界へ逃避させるのに効果があるのかもしれません。しかし興奮はあっても永続的な癒しはないでしょう。

 創造主なる神は、天体の動き、我々の身体的機能、言語活動(例えば韻律)など、様々な分野にリズムを与えておられます。そのリズムに逆らうと、自然界に環境破壊が起こり、人間の心が病みます。聖書のことばの中に神のリズム、波長が隠されています。「聞く耳」を持つと感じられます。サウル王の心を癒した詩篇の作者ダビデは「たとい、死の陰の谷を歩くことがあっても、私はわざわいを恐れません。あなたが私とともにおられますから。」(詩篇23:4)と、神のリズムに波長を合わせ自らも癒されています。

文・北野 耕一

文・渋沢清子