《福音》恵みのおとずれ 1995年 10月号

 おおよそ2000年前のこと、イスラエルに大工の息子がいました。彼は目立ったところもなく貧しい普通のユダヤ人でした。ところが、彼の言葉には不思議な力がありました。彼が語りかけると病人が癒され、死人も生き返り、風や波まで静まりました。彼に反対する者も多くいましたが、決して争いませんでした。やがて多くの弟子ができました。

 ある時彼は、自分が神のみ子であると告げたためにユダヤ教の指導者達から憎まれ、罪がないのに十字架刑にかけられてしまいました。弟子達は恐れて逃げてしまいました。ところが、彼は死んで3日目によみがえりました。弟子達はそのことを最初は信じられませんでしたが、復活の体を自分の目で見、また手で触れて、事実であることが分かると、非常な喜びにあふれました。彼は他の多くの弟子達にも現れると、「あなたがたは神から力を受けます」と言い残して、生きたまま天に上げられていきました。

 まもなくその言葉の通りに力が与えられ、弟子達は死を恐れない勇気ある人に変えられました。彼らは自分達が見た事実を世界の人々に伝えて行き、またその内の幾人かは、書物に記しました。それはやがて新約聖書となり、世界中の人々に読まれ、弟子達が信じた彼の名(イエス・キリスト)が世界中に知られるようになりました。キリスト教は、ただ単にキリストの教えを説く宗教ではありません。イエスが復活したという事実を確認した人々の証言に基づくものです。

「神は、ご自分の大きなあわれみのゆえに、イエス・キリストが死者の中からよみがえられたことによって、私たちを新しく生まれさせて、生ける望みを持つようにしてくださいました。」(聖書)

 さて、一人の体の不自由な人をご紹介します。彼の父と後妻の母親は、彼の存在をひた隠しにしました。彼は親からのけ者にされ、辛い毎日を送っていました。心の中は親に対する憎しみで満ち、やがてお酒とタバコが無ければいられないようになりました。

 彼のいる施設ではある教会が毎月集会を行なっていました。彼はその教会に通うようになり、翌年、洗礼を受けました。彼は洗礼式の時に、「これからはお酒もタバコも止めて新しい人生を送りたい」と心の内を述べましたが、それ以来、お酒とタバコから離れることができています。また、3時間かけて自分の力で車イスを押して礼拝に通い、道行く人に、「これから教会の礼拝に行くところです」と明るく話をします。彼は他のクリスチャンを励まし、礼拝等に欠かさず出席しています。真の神を知らなかった時は無力でしたが、今や、悪習慣の束縛から解放されて自由となりました。そして、キリストが復活されたのと同じように、死を乗り越えた望みを抱いて生きています。

文・中山規夫