《福音》恵みのおとずれ 1998年10月号
学生時代、オーケス卜ラでクラリネットを吹いていました。ブラスバンドと違って、オケのクラリネットは2人か多くても4人で編成されます。だから弦楽器のようには、なかなか出番が回ってきません。1年間のキビシイ(?)下積み生活の後、やっと定期演奏会に出演できることになりました。デビュー曲は、確かベートーベンの「工グモン卜序曲」。フルー卜やクラ、オーボエなどの木管のハーモニーの美しい曲です。
本番の2,3週間前、木管のパー卜だけで集まって、練習することになりました。その練習を、ナン卜、あのNHK交響楽団のオーボ工の首席奏者の方に見てもらえることになったのです。こんな機会はめったにありません。
前日から、何を教えてもらえるのかと、ワクワク、ドキドキ期待し、念入りにさらって、ついにその日がやってきました。1時間半ほどのその練習の間、やったことといったら、ひたすら数小節間の伸ばしばかり…。なんだ~とちょっと気抜けしたのですが、ところがなかなかOKが出ません。だって、ちゃんと楽譜通り吹いているのに…と、そんな顔をしていると、「もっと他の人の音を聞いて!」「他人の音?」他のパー卜の音を聞きながら、もう一度同じように、レ~ミ~レ~って吹くと「そう、それでいいの」という声が返ってきました。人の音を聞いてそれに和していく、アンサンブルの基本中の基本をその日初めて学んだのです。
今、楽器はほとんど吹くこともなく、ホコリをかぶってしまっていますが、あの日のことは時々思い出します。自分の音を出すことばかりに気を取られていると、決して美しいハーモニーは生み出されません。違う音色に耳を傾け、受け入れ、和していく…あらゆる人間関係に、美しい調和を生み出していく秘訣でもありますね。
ヘりくだって、互いに人を自分よりもすぐれた者と思いなさい。 聖書
(文・細川 るり[旧姓:山本])